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【コラム】十月 寒露 十三夜

《 Belles Fleurs Tokyo フラワーデザインコラム vol.20 》

深まる秋

 秋のお彼岸も過ぎて、今年は108日から二十四節気の「寒露(かんろ)」に入ります。露が冷たく感じられる頃、冷たい露が野草に付く頃という意味で「寒露」とされています。また、露が冷気によって凍りそうになる頃ともいわれて、草木の露が冷気で霜になりそうな様を表す言葉です。朝晩は冷え込みが増して、一日一日と、深まる秋が感じられる時季となります。

 そんな寒さが感じられる寒露ですが、また空気が澄んで秋晴れの過ごしやすい日が多くなる時節でもあります。透き通るような青空から、木漏れ日を浴びながら雑木林を歩いていると、木々の葉が色づき始めていることに気づかされ、道端に舞い落ちた枯葉を手にすることもあるでしょう。

十三夜の月

 この季節、やや寒の夜道を帰るときに夜空を見上げると、くっきりと輝く月が目に飛び込んできます。誰もが詩人になれる瞬間ではないでしょうか。

中秋(旧暦815日)の十五夜にお月見をする風習は、中国唐代の観月の宴が起源とされています。この宴が平安時代頃に日本に伝わり、貴族が十五夜を鑑賞するようになりました。一方、日本では旧暦913日の月(十三夜)も美しいとされ、十三夜もお月見をするようになり、この風習が庶民に広まったのは江戸時代です。

十五夜の月は満月ですが、十三夜の月は満月になる前で少し欠けていて、満月ではありません。月が満ちる少し手前の風情を愉しむ、不完全なものに美を見いだす趣向に、日本の心を感じます。

「余白の美」、「不均衡の美」、「引き算の美」など、日本には、不完全の美学が存在します。その満たされない部分に、想像の余地を無限に与えてくれる美学です。十三夜は、月が満ちていく時を私たちに連想させ、不完全さの先にある美しさを想像する、そんな心の遊びを楽しめるでしょう。

十三夜も十五夜と同様に、薄(ススキ)などのお花やお月見団子、収穫した栗や豆などを飾ってお祝いします。なぜ薄なのか、と思ったことはありませんか?『枕草子』には「秋の野のおしなべたるをかしさは、薄こそあれ。」(清少納言)と書かれているように、古来、薄は秋の風雅を色濃く伝えるものとして、数多くの歌や美術の題材となってきましたが、それ以上に薄は、稲穂の代わりとして豊作を祈願し、月の神様をお招きする依り代(よりしろ)としての役割を果たして飾られているのです。

野紺菊

 十三夜を眺める足元では、すでに野菊が咲き始めています。秋のおだやかな晴天の下、野原や公園の林などで清楚な花をつける野菊は、少し空気がひんやりしてきた今の季節にふさわしい花です。小説などでも知られる野菊ですが、野菊という名の菊はないのです。野菊とは自生のキク科の花の総称で、写真の野紺菊(ノコンギク)や嫁菜(ヨメナ)、紫苑(シオン)など、とても多くの種類があります。この小さな野菊を飾ると、十三夜と同じにロマンチックな気分がいや増します。

さて今年の十五夜は、917日、十三夜は1015日です。まだ間に合うでしょうか?十五夜と十三夜の片方しか月見をしないと「片月見(または片見月)」として縁起が悪いという言い伝えもあるようなので、深まりゆく秋を月と薄と野菊で、ワインや冷酒を楽しんでみてください。

秋のシーズンコレクション

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